藤田瑠奈(ラクロス)「大きな話に聞こえるが、マイナー競技だから光を当てたいと思う」

世界選手権でメダルを獲得したい、その一心で1年半を費やしてきた。しかし結果は望むものではなかった。今、虚しさを覚えつつ新たな目標に向かう。(雑誌『Tarzan』の人気連載「Here Comes Tarzan」〈2026年10月22日発売〉より全文掲載)

text: Ichiro Suzuki photo: Koh Akazawa

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藤田瑠奈(ラクロス)
Profile

藤田瑠奈(ふじた・るな)/ラクロス選手。1999年生まれ。167cm。慶應義塾大学でラクロスを始める。2021-2022年日本代表。2025年SIXES(6人制)日本代表。2026年日本代表。世界選手権7位。フジテレビ社員。NeO LACROSSE CLUB所属。

真っ向勝負という気はない。実力差を理解していたから、心理戦をするしかなかった。

26年7月に東京で開催されたのが、ラクロスの女子世界選手権だ。この競技は4強と呼ばれる国がある。それがアメリカ、カナダ、イングランド、オーストラリア。日本代表は昨年のアジア・パシフィック選手権でオーストラリアに、同年のワールドゲームズでイングランドに勝利している。実力は着実に上がってきていて、選手も世界選手権でのメダルを目指し、日々を励んできた。

結果としては準々決勝でカナダに敗れたのだが、延長戦にまでもつれ込んだこの試合を見た観客の中には、日本は確実に世界に近づきつつあると思った人も多いはずだ。だが、日本代表のゴールキーパーであり、キャプテンも務めた藤田瑠奈はこう語る。

藤田瑠奈(ラクロス)

「日本がカナダという強豪に対して競った試合をしたという見方は、戦っていた私たちの感覚とはまったく違います。実力差があることは感じていたし、だから真っ向勝負して勝とうという気はなかったんですよ」

試合は日本が第2クォーターまで2—0とリード。だが、第3クォーターでは3—3となり、最終第4クォーターの残り5分でカナダがゴール。ところがその2分後、つまりあと3分で試合終了のときに日本が同点に追いつき延長戦へ入る。日本はすぐに仕掛けてシュートに持ち込んだが、ボールはポストに阻まれ、カナダの反撃に敗退したのであった。

藤田瑠奈(ラクロス)

「実力差を理解していたから、心理戦をするしかなかったんです。それはポゼッション(ボールの支配率)を高めるということ。ずっと私たちがボールを保持し続けることで、相手のカナダ選手に違和感を持たせるところを重要視していました。だから、コーチが〇、△、×のボードを出して、〇か△じゃない限りは、どんなに決定的でもシュートは打ってはいけないというルールもあった。それで最初に2点先行できたんです。かなりびっくりな状態でした。だから、カナダに4点目を取られたときも、追いつく、追いつくと思っていました。でも、延長戦では〇でゴールを決め切れなかった(ポストに阻まれた1点)のは残念だった。海外に留学している選手も多いので、数年前より日本選手の個人の技術はうまくなってきている。ただ、それと同じように、外国の選手もすごく成長している。まだ追いつけていない、やることは多いと実感しましたね」

実はゴーリーって美味しい。“アイツが止めた”ってなるから。

ラクロスはクロスという先端に網が付いたスティックで、硬質ゴムのボールを奪い、パスをしてゴールに繫げる競技だ。クロスの網にボールが入っていれば、サッカーやバスケットボールのようにドリブルをすることなく自由に動ける。ルールはいろいろあるが、まずこの機動性というのが一番の特徴だろう。もちろん、パスを受ける側も自由に動ける。

「やっぱりスピード感ですね」とラクロスの魅力について藤田も言う。

藤田瑠奈(ラクロス)

「足の速い選手だと、バーッと走って、全員置き去りにして1人で(ゴールまで)持っていってしまう。それにパス。最初は速くて(最速で150km/hにもなる)見る人はどこにボールがあるかわからなくなってしまいますが、慣れるとスピード感を楽しんでもらえると思うんです」

とはいえ、藤田はゴールキーパーであり、約180cm四方のゴールを死守するのが仕事である。走り回るということは、ほとんどないのだ。

藤田瑠奈(ラクロス)

「実はゴーリーって美味しいんですよ。本来、ディフェンスの連携というのがあって、とくに日本の場合はそれが強みで、全員が何分も何分も頑張って守って、その結果相手はシュートを打たされるというか、コースがなくなってそれをキーパーが捕る。多分、それが見ているほうにはあんまりわからないから、“アイツが止めた”みたいになるんですよね」

これは謙遜であろう。そもそも、藤田が最後の砦の役割を果たさないと試合には勝てないし、絶えず得点を与えないよう心を配るというのは、大変なプレッシャーだろう。ゴールキーパーと、それ以外の選手とは求められるものが違うのだ。それ以外の選手は、常に動き回れるだけの持久力と、相手を抜くテクニックやスピードが必要。

だが、ゴールキーパーは、150kmにもなるボールをゼロコンマ何秒という瞬時で抑え込まなければならない。これは、頭ではなく反射的にカラダを動かすことができなければ、まったく成立しない。だから、練習の内容も他の選手とはまったく違ったものになる。

藤田瑠奈(ラクロス)

「持久力よりも瞬発的なパワー発揮が鍵になります。シュートされたボールに対して、ゼロの状態からガンッて出力することと、一瞬にしてどうカラダを動かすかがメインとなる。だから、たとえば練習相手がボールを両手に持って、肩の高さから落とす。左右どちらが落ちるかわからないし、フェイントをかける場合もある。それを前傾して捕るという練習(写真上)をしたりします。筋力トレーニングもしますが、自分が止まった状態から瞬時に100%力を出せるようにする瞬発系、パワー発揮のトレーニングが主になりますね」

頑張りが報われるのは、オリンピックのメダル。

藤田は社会人でもあり、フジテレビの社員として働いている。会社側も競技に理解をしてくれて、「練習があるときはフレックスで」対応してもらえるのでありがたいというが、働きながら週2回は大学のラクロス部の練習に参加したり、土日は自分の所属チーム〈NeO LACROSSE CLUB〉の練習があったりと、厳しいスケジュールをこなしている。

それは再来年のロサンゼルス・オリンピックという目標があるからだ。なんと120年ぶりに正式種目として採用されたのである。

藤田瑠奈(ラクロス)

「今回の世界選手権のためにすべての労力をかけて1年半やってきたんです。それは、何の悔いもない時間だったし、やるべきことは全部やった。でも、相手のほうがうまくて、虚しいというか、今から何を頑張ればいいのかっていう部分はあります。ただ、やはり自分たちの頑張りが報われるのは、結果が出ることだと思う。そのためには、オリンピックでメダルが欲しい。NeOでは全日本クラブ選手権などで優勝を目指して、戦っていきたいです。海外の選手は2歳とかからラクロスを始めているから、スティックスキルというんですか、クロスを自分の手のように扱える。それに追いつきたいし、私たちがロスでメダルを獲れば、ラクロスをやりたいという小さな子も増えますよね。何か大きな話に聞こえるかもしれないけど、本当にマイナースポーツなので光を当てないと、と思っているんです」