葛根湯は肩こりにも効く?不調から選ぶ、漢方薬の人気処方。
カラダとココロのさまざまな不調の改善に働きかけ、日々の生活にも取り入れやすい漢方薬をセレクト。それぞれの特徴を知り、いまの自分に役立つ処方を見つけよう。
text & edit: Nobuko Okamoto illustration: Tomonori Yonemura, Yoshifumi Takeda (profile)
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教えてくれた人
河尻澄宏(かわじり・すみひろ)/東京女子医科大学附属東洋医学研究所准教授。順天堂大学大学院、UCLAを経て漢方の道へ。専門は漢方全般、脳神経内科・内科全般。臨床では頭痛、脳神経系のほか、女性特有の不調など幅広い疾患に対応。
いろいろ効いて役に立つ、おすすめ処方11選。
漢方には、異なる病気や症状であっても根本原因が同じであれば同じ薬で治療する「異病同治」という考え方がある。そのため、ひとつの薬でカラダとココロの不調が同時に和らぐこともあるのが面白いところだ。
「漢方薬は複数の生薬から構成され、それぞれに多種多様な有効成分が含まれます。“配合の妙”とも言うように、組み合わせによる相乗効果も特徴のひとつ」と話す、東京女子医科大学附属東洋医学研究所の河尻澄宏さん。
その反面、漢方には「同病異治」という考えもあり、同じ症状に対応する複数の薬がある。選ぶときのポイントは?
「体格や冷えの有無、精神状態などにも目を配るのがコツ。水分代謝や胃腸の状態も基準に」と話す河尻さんが臨床で多く処方する薬を筆頭に、幅広く活用できる漢方薬をセレクト。周辺症状も含めて合うものを選ぼう。
ただし漢方薬にも副作用があり、むやみにダラダラと飲み続けるのはNG。
「甘草(かんぞう)の1日量は、原則として2.5g未満 (目安)にとどめることが推奨されています。 長期服用で低カリウム血症や血圧上昇、黄芩(おうごん)ではまれに肝機能障害、間質性肺炎などのほか、山梔子(さんしし)では腸間膜静脈硬化症などを引き起こす可能性が。長期で服用する場合は医療機関での処方を受けるのがおすすめです」
チェック!
ここで紹介するOTC(一般用)医薬品の漢方薬は、すべてドラッグストアなどで購入可。風邪などの急性症状は数日〜1週間、慢性の不調でもまず1〜2週間様子を見よう。
それでも効果が実感できない・症状が長引く場合は服用を中止し、医師や薬剤師に相談を。長期の服用が必要なときも、医療機関での処方や定期的な検査を受けると安心だ。
1.葛根湯(かっこんとう)|初期の風邪、肩こりに。

風邪の初期への代表処方。ただし発熱しても寒けがある場合で、すでに汗をかいている場合は不向き。ほか肩こり、首~背中のこわばりや痛み、緊張性の頭痛などのほか、乳腺炎、結膜炎、蕁麻疹など、体表に生じる炎症や皮膚症状にも効果がある。
麻黄(まおう)に含まれるエフェドリンの興奮作用で覚醒作用を示すことがあるが、ドーピング検査に引っかかる可能性があるためアスリートは注意。
【生薬の配合】
主薬の葛根に麻黄・桂皮(けいひ)が組み合わさり、強力な発汗作用によって体表にあらわれる症状(表証)や熱を発散。ほかに筋肉の痛みや痙攣を緩める芍薬(しゃくやく)、諸薬を調和させる甘草、カラダを温めて胃腸の働きを整える生姜(しょうきょう)や大棗(たいそう)が配合される。
【効くメカニズム】
葛根には筋肉を緩める「ダイゼイン」という成分が含まれ、首から背中にかけてのこわばりを緩めると同時に、桂皮が末梢血管を拡張させて血流を促す。さらに麻黄には交感神経を高ぶらせるエフェドリンが含まれ、これらが相乗的に作用して発汗が促されることにより症状の改善につながると考えられる。
2.五苓散(ごれいさん)|酒飲みに嬉しい漢方薬。

体力を問わず幅広い体質に適応し、頭痛、めまい、むくみ、嘔吐、下痢、熱中症、車酔い、硬膜下血腫などに使われる。舌の縁に歯形(=歯痕)がつくような場合は特に向いており、台風や梅雨など気圧の変化で悪化する不調(=気象病)への代表的な処方でもある。
二日酔いなど飲酒後の不調に活用されることも多く、飲酒の前後や翌朝の服用もOK。胃腸にもやさしく、比較的安全性が高い漢方薬だ。
【生薬の配合】
猪苓(ちょれい)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、白朮(びゃくじゅつ)(または蒼朮(そうじゅつ))、桂皮の5種類。体内の水分バランスが乱れた「水毒(水滞)=水分の偏在・滞り」に対する中心処方。
【効くメカニズム】
沢瀉・猪苓・茯苓・白朮の4種が、体内の水分代謝を調整する「利水剤」。細胞膜の水チャネルであるアクアポリンというタンパク質に作用して余分な水分を排泄すると同時に、脱水のある部位へは水分を行き渡らせる働きも持つ。これらに気の巡りを整える桂皮が加わって、滞った水分の代謝がスムーズに。
3.人参養栄湯(にんじんようえいとう)|疲れたカラダをケア。

全身倦怠感、慢性疲労、食欲不振、集中力が低下してボーッとした状態や、風邪の後で長引く咳などの呼吸器症状。「血」を補うため冷え性や貧血、皮膚の乾燥、「気虚」のサインである寝汗や息切れにも用いられる。病後や術後、高齢による体力・気力の低下や、仕事などで疲労困憊した若年層にも使える。
【生薬の配合】
人参・黄耆(おうぎ)を配合し、不足した気を補って巡らせる漢方薬の基本処方「参耆剤(じんぎ)」の一種。ほか当帰(とうき)や地黄、芍薬など血を補う生薬や、カラダを温めて血の巡りを助ける桂皮、肺を潤して呼吸を助ける五味子(ごみし)、逆に余分な水分を除いて肺や胃を整える陳皮(ちんぴ)、精神安定や認知機能にも作用する遠志(おんじ)などの12種類。
【効くメカニズム】
不足した「気・血」を同時に補う「気血両虚」に対する代表的処方のひとつ。近年では特に高齢者のフレイル(加齢による心身の虚弱)に対する研究が進み、歩行スピードや握力の向上、空腹ホルモンといわれるグレリンの調節による食欲不振の改善といったデータが多く示されている。
4.小柴胡湯(しょうさいことう)|胃腸の不調や眩暈に。

風邪をこじらせて数日経ち、東洋医学で病気の原因と考える「病邪」が呼吸器から消化器周辺の体内に入り込んだ状態で、微熱や吐き気、咳、胃腸の不調、口の苦みやめまいなど。そのほか食欲不振、イライラや焦燥感、うつうつとした精神症状にも多用される。
【生薬の配合】
柴胡(さいこ)を主成分とし、カラダの熱を冷まして精神を安定させる 「柴胡剤」の中心処方。これと相乗的に働く黄芩に加え、胃の不快感を鎮める半夏(はんげ)、胃腸を整え体力を補う人参、緊張をほぐす大棗、カラダを温める生姜、痛みを和らげる甘草の7種。
【効くメカニズム】
カラダにこもった熱や炎症、イライラを鎮める柴胡に黄芩を組み合わせることで、みぞおちから肋骨の下にこもった熱を冷ます。半夏・生姜が胃の逆流感を抑えて悪心・吐き気・つかえを解消し、人参・甘草・大棗が胃腸の機能を保護して消耗した体力を補う。
体力が中等度の人向けで、カラダが弱い人はの柴胡桂枝乾姜湯、強い人は大柴胡湯が適する。
5.九味檳榔湯(くみびんろうとう)|むくみや冷え対策に。

冷えて便秘傾向にあり、むくみがある人。補気建中湯は胃腸の不調でむくむ場合なのに対し、本薬はメンタル不調を伴ったむくみ症状に適応する。もとは脚気や心臓疾患に用いられた漢方薬で、下肢のむくみ・重だるさ、疲れ、全身倦怠感、関節の腫れや痛み、動悸、息切れ、更年期障害にも用いられる。
【生薬の配合】
主薬の檳榔子(びんろうじ)のほか、茯苓、大黄(だいおう)は水分や便の滞りを改善・排出する生薬。厚朴、橘皮(きっぴ)、木香(もっこう)、蘇葉(そよう)は「気」の巡りをスムーズにするほか、カラダを温めて痛みを和らげる呉茱萸(ごしゅゆ)、桂皮、生姜、甘草の全11種類を配合。
【効くメカニズム】
水分代謝の乱れによる「水毒」と精神的ストレスの「気滞」の両方にアプローチする漢方薬。
檳榔子が「気」を下ろし巡らせ、余分な水を除いて胃腸の動きを整える。大黄には軽い下剤作用もある。茯苓は利水剤としてむくみを取り除き、厚朴・橘皮・木香・蘇葉は気を巡らしメンタルを安定させる。さらに桂皮・生姜・呉茱萸にはカラダを温め、冷えによる痛みや不快感を和らげる効果も。
6.五積散(ごしゃくさん)|冷えによる不調をカバー。

上半身は熱く下半身が冷えている「上熱下寒」を前提とし、整形外科的な腰痛(慢性含む)、神経痛、関節痛、筋肉痛に用いられる。婦人科系では冷えによる月経痛や更年期障害。その他、めまいや頭痛、胃腸炎など幅広い。冷たいものを飲食したり、冷房にあたったりして調子を崩した場合にもよい。興奮作用のある麻黄を含むため、アスリートや競技者はドーピング検査に注意。
【生薬の配合】
麻黄・白芷(びゃくし)をはじめ16種類もの生薬を配合し、「五積」=気・血・痰(湿・水分)・寒(冷え)・食(消化)の5つの病因を取り除く処方。特に「寒」と「痰」を散らす働きにすぐれる。
【効くメカニズム】
生薬数が多いため、幅広い症状にマイルドに効くことが期待される。麻黄・白芷・桂皮はカラダの表面を、乾姜(かんきょう)や生姜などが内部を温めて冷えを改善。当帰・川芎・芍薬は、末梢の血流を促して痛みを和らげる。半夏・茯苓などは利水剤として不要な水分を取り除くほか、陳皮・厚朴・蒼朮が胃腸の湿気を除き、気の巡りを改善。体質的な冷えと、寒さや冷房などの外気が重なって生じた慢性症状を緩和する。
7.大柴胡湯(だいさいことう)|ココロが乱れている時に。

体力充実(実証)でがっちりした体格で、暑がりでカッカしている人の熱状を冷ます。お腹や胸脇(季肋部)の筋肉がガチゴチに硬い「胸脇苦満」が強い人に用いられ、高血圧や肥満傾向に伴う頭重感や肩こり、便秘、頭痛のほか、慢性胃炎、うつうつ・イライラ・焦燥感などの精神症状にも向く。
【生薬の配合】
柴胡と黄芩を主薬とした柴胡剤で、胃腸を整える半夏や大棗・生姜、気を巡らせる枳実(きじつ)、筋緊張をほぐす芍薬、下剤でもある大黄など8種の生薬による構成。
【効くメカニズム】
柴胡剤の中で最も体力がある人向けで、熱を冷ます「清熱剤」のひとつ。柴胡・黄芩がストレスや気の滞りを和らげ、半夏が悪心やつかえを抑える。芍薬は筋肉の過緊張を緩め、大黄・枳実にはお腹の張りを改善して便通を促す作用がある。
市販の肥満改善薬にも配合される漢方薬だが、下剤的な作用による影響が大きく、また作用の強い薬で副作用の可能性もある黄芩も含むため、漫然と飲み続けたり、単なる痩せ薬としての使用は避けるべき。
8.小青竜湯(しょうせいりゅうとう)|花粉症や鼻炎の味方。

アレルギー性鼻炎、花粉症、くしゃみ、咳、喘息、気管支炎、風邪の初期など。透明でサラサラした水様性の鼻水や痰に向き、ドロッとした黄色い鼻水や痰には適さない。交感神経を刺激する麻黄を含むこともあり、花粉症には予防としてシーズン前に長期で飲むのではなく、症状が始まってから服用すること。興奮作用のある麻黄を含むため、アスリートや競技者はドーピング検査に注意。
【生薬の配合】
発汗を促す麻黄や桂皮、カラダを温める乾姜、細辛(さいしん)、収斂作用で鼻水を抑える五味子のほか、半夏、芍薬、甘草の8種類からなる処方。
【効くメカニズム】
麻黄・乾姜・細辛・桂皮がカラダを温めて、体表や呼吸器の冷えを発散。気道に溜まった水分を温めて乾かす。半夏は気管支や胃の水分の滞りを、五味子は鼻水や咳などの過剰な分泌を抑え、芍薬・甘草が気管支の筋痙攣を緩めて咳を鎮める。
古くは「心下(心臓・胃のあたり)」の水を排出して咳などを治める薬として用いられたが、現代ではおもに「鼻」から「肺」にかけての水をさばく処方の定番とされている。
9.防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)|老廃物を流し、熱を放出。

頭痛・目の充血・ニキビや吹き出物・湿疹などでカラダの表面に表れる熱(風熱)と、濃い尿・強い便秘などの内側の熱(内熱)が合わさった症状全般。がっちりした固太りで通称「太鼓腹」の、暑がりな人に適する。
肥満症のガイドラインにも掲載されている漢方薬だが、長期服用で副作用の可能性もある黄芩、麻黄、山梔子を含み、体質に合わない人が単なる肥満改善薬として漫然と飲むのはNG。興奮作用のある麻黄を含むため、アスリートや競技者はドーピング検査に注意。
【生薬の配合】
18種類もの生薬を組み合わせることで汗、便、尿というあらゆる経路を開通させ、老廃物をまとめて排出。体内にこもった熱を冷まして諸症状を改善させる処方となる。
【効くメカニズム】
麻黄・防風(ぼうふう)・生姜・荊芥(けいがい)が発汗を促し、体表から熱を放散する。大黄・芒硝(ぼうしょう)は腸内で停滞した便を、滑石(かっせき)・白朮が余分な水分を尿として排出する。さらに石膏(せっこう)・黄芩・山梔子が体内の熱を冷まし、老廃物の排泄を促す。
10.芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)|筋肉の痙攣や急な痛みに。

こむらがえり(脚の攣り)、筋肉痛、ぎっくり腰など、急に起こる筋肉の痙攣による痛みに幅広く対応。寝起きに脚が攣る場合は夜寝る前に服用してもいい。胃痙攣などの急激な胃痛、生理痛、尿管結石の痛み、しゃっくり、子供の夜泣きなどにも使われる。ただし甘草を多量に含むため連用は副作用のリスクが高く、症状があるときに短期間で飲むのが鉄則。
【生薬の配合】
芍薬と甘草の2種類のみというシンプルな処方。芍薬は収縮した筋肉を緩和し、甘草が協調して作用しながら筋肉の痙攣や痛みをすみやかに抑える。
【効くメカニズム】
体格を問わず使用可能で、こむらがえり(脚の攣り)の発作が起きたときの頓服薬として即効性の高い筋弛緩・鎮痛薬。芍薬の有効成分ペオニフロリンは細胞内へのカルシウム流入を抑えて骨格筋や平滑筋を弛緩させ、甘草の成分(グリチルリチンやその代謝物)は神経から筋肉への興奮伝達をブロックして筋痙攣を抑制。相乗効果で急激な筋緊張や痛みを効率よく改善する。
11.苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)|立ちくらみ・車酔い対策に。

立ちくらみ(起立性低血圧)、体位を変えたときのめまい・フラつきに効果がある。不安感や動悸を伴うような場合にはさらに適しており、頭痛や耳鳴り、むくみ、車酔いなどにも使われる。
【生薬の配合】
茯苓、桂皮、白朮(または蒼朮)、甘草の4種類によるシンプルな処方で、体内の水分代謝が滞る「水毒」と、気が上へと逆流する「気逆」に対する漢方薬。
【効くメカニズム】
内耳にあるリンパ液のバランスが崩れると、平衡感覚が低下してめまいやフラつきの原因に。漢方でもこれらは水分が滞った「水毒」が原因と考え、主薬として多く含まれる茯苓には余分な水分を排出すると同時に、精神を安定させる作用もある。
同じく利水剤である白朮は胃腸の働きを高めて水毒を取り除くほか、桂皮がカラダを温めて気の巡りをよくし、「気逆」による動悸やのぼせなどを鎮静。同じく利水薬として有名な五苓散との違いは、この気逆や精神不安への作用がプラスされている点にある。
