肝臓の機能を改善する気功とは? 東洋医学的養生術を今日から実践。

東洋医学の見地から、肝臓・腎臓・膵臓をいたわる方法を紹介。自分が注意すべき臓器を知り、気功や生活習慣の工夫、漢方で養生しよう。

取材・文/石飛カノ 撮影/谷 尚樹 スタイリスト/矢口紀子 料理作製/ちづかみゆき(料理家、国際中医薬膳師) イラストレーション/沼田光太郎 編集/阿部優子

初出『Tarzan』No.916・2025年12月11日発売

肝臓のキャラクター
教えてくれた人

瀬戸郁保(せと・いくやす)/源保堂鍼灸院院長。中国の古医書を基にした経絡治療の施術により、現代人の不調改善に努める。著書に『長生きをしたければ、「親指」で歩きなさい』(学研プラス)など。

鵜沼宏樹(うぬま・ひろき)/中国・北京で中医学を学び、中医師の資格を取得。その後北京で研鑽を積み、帰国後は帯津三敬病院を経て、現在は統合針灸治療院〈元気〉の院長を務める。気功に関する著書多数。

五感や感情を含めたユニットとして、臓器を捉える。

紀元前に誕生した古代中国の五行説は、万物を「木・火・土・金・水」の5つの物質に分類し相互の関係性から世界を読み解く哲学。これが医学にも応用され、五臓六腑という臓腑論が確立した。「肝・心・脾・肺・腎」の五臓のうち、肝臓は「肝」、腎臓は「腎」、膵臓は「脾」だ。

「東洋医学の臓器名は西洋医学と一致するもの、そうでないものがあります。また、西洋医学の臓器名は臓器そのものを指しますが、東洋医学の臓腑論ではその臓器を機能だけでなく五感や感情などを含めたユニットとして捉えます」と国際中医師の瀬戸郁保さん。

肝臓・腎臓・膵臓の機能や関係性は、西洋医学でもすべてが解明されているわけではない。より視野を広げた東洋医学的アプローチで、3つの臓器の現状を探ろう。

より大きな視野で3臓器を検証!

肝臓・腎臓・膵臓の機能や関係性は、西洋医学でもすべてが解明されているわけではない。より視野を広げた東洋医学的アプローチで、3つの臓器の現状を探ろう。

まずはチェック。あなたの3つの臓器の現状は?

チャック項目

緑、黒、黄色、それぞれの項目に当てはまる数が最も多いのが、あなたが弱っている内臓タイプ。

3つの臓器の調子はいかがだったろうか。どれも自覚症状がほぼない臓器なので、メンタル面から調子をみるのも一つの手がかりだ。

肝臓に注意の人|イライラタイプ

肝臓に注意の人|イライラタイプ

パワフルな「将軍」。ウイルスなどの外敵との戦闘や、解毒や血液の分配など、さまざまな働きを担当し、大きな権力を持つ。ときに抑えが利かなくなるとイライラして周りをビビらせる。

東洋医学では「将軍の官」と呼ばれる臓器。将軍はいわば軍隊で大きな力を持ち、ときに暴走することも。

腎臓に注意の人|ビクビクタイプ

腎臓に注意の人|ビクビクタイプ

東洋医学の腎は「作強の官」という異名を持つ。これは物事を成し遂げるための原動力という意味で健康の源。腎が弱まると常に物事にビクビクしがちな気質が表に出てくる。

腎気・腎精・腎陰・腎陽の4つが腎という臓器の中にあると捉える。西洋医学で言う腎臓は主に腎陰のこと。

膵臓に注意の人|クヨクヨタイプ

膵臓に注意の人|クヨクヨタイプ

栄養を吸収し各所にそれを配って国の安定に努めるだけでなく、物事を考えたり精神を安定させる智力を担っている。軍人というより文官。その力が弱まると小さなことでクヨクヨしがちに。

肝臓は「肝」、腎臓は「腎」。なぜ膵臓は「脾」なのか?

五臓の関係図

五臓の関係は上の通り。実線は、腎は肝を助け、脾(膵)は肺を助けるという関係。点線は相手を抑制するという意味。肝は脾を制し、脾は腎を制する。このように臓器は相互に影響し合っている。

ところで、「膵臓」に当たる五臓がどうして「脾」なのか、疑問に思った人もいるだろう。実は膵臓という単体での概念が東洋医学にはない。「膵」という字は江戸時代の蘭方医がつけた和製漢字で東洋医学では膵臓の存在は知られていなかった。

とはいえ、その働きは栄養を消化吸収する消化器を表す「脾」に含まれる。インスリンを分泌して糖を組織に運ぶのも消化器の役割だからだ。

「中国の古い医書にすべての不調は脾から始まるとの考え方がある。食は毎日の習慣なのでとくに膵臓には注意すべき。肝臓は気、血液、リンパの流れを推進するのでストレスやアルコールなどの負担をかけすぎず、腎臓は生命エネルギーを維持する役割があるので英気を養う生活が重要」(源保堂鍼灸院院長・瀬戸郁保さん)

そして膵臓の働きは消化吸収を担当する脾臓の中のひとつと考えられる。

各臓器の機能改善を!気功に挑戦しよう。

まずは3つの臓器に有効な気功を鵜沼宏樹さんに教えてもらった。

「肝臓と腎臓に関しては臓器をさすった後に“手当て”を行い、オキシトシンというホルモンの分泌による血流改善と治癒力アップを狙います。膵臓は“う”の口の形で“ほー”という音を出しながら8の字を描くように動きます。“六字訣”という各臓器に対応する音で、膵臓機能を改善することが分かっています」(臨床気功師・鵜沼宏樹さん)

すべての気功の目的は臓器とその周辺の血流を促し、機能改善を図ること。実践のタイミングは食後1時間以上経ってからだ。

肝臓|擺動疏肝功(はいどうそかんこう)左右交互に20回→5秒間目を閉じて手当て×2セット

擺動疏肝功(はいどうそかんこう)

  1. 椅子に座り、背すじを伸ばす。両手の掌を肋骨の一番下の際に当てる。
  2. 掌を左に移動させ、さすると同時に胴体を右に移動させる。
  3. 左右交互に20回行ったら1の姿勢に戻る。
腎臓|搓腎功(さじんこう)「外から内」だけを数えて20回→各5秒間目を閉じて手当て×2セット

搓腎功(さじんこう)

  1. 両手で軽く拳を握る。手の甲側をヘソの裏の高さで背骨の両側に当てる。
  2. 手の甲で「内から外」「外から内」と背中をこすりながら移動させる。
  3. 20回行ったら顔を右に向け、右手を右腰、左手をその裏の腹に添えて手当て。次に左手で左腰、右手をその裏の腹に添えて手当て。
膵臓|健脾転環功(けんびてんかんこう)左右交互に8回×2セット

健脾転環功(けんびてんかんこう)

  1. 両足を閉じて立ち、両手を胸前で合掌する。
  2. 腰を大きく右に捻りつつ右手を上にして両手で大きく円を描く。
  3. 正面に戻ったら左手を上にして腰を左に大きく捻りつつ両手で大きく円を描く。「hu−」という音は左右に捻る時に発声する。

休日出勤は腎臓ケアに悪い? 日常生活のOK・NG行動。

それぞれの臓器を労わる行動もあれば、機能を弱めてしまう原因となる悪行動もある。東洋医学の観点からOK・NG行動をチェックしよう。

肝臓|暴走に注意して適宜リラックスを。

【OK】柑橘系のアロマでリラックスする。

柑橘系のアロマでリラックスする

肝臓はパワフルな臓器だけに鬱屈しやすい。

「強い力を自分で処理できないとグーッと固まってしまって鬱屈したエネルギーがやがて破裂して機能低下に陥ります。だから、常にイライラや緊張状態をリリースさせてあげることが大事です」(瀬戸さん)

ストレスが溜まったらオレンジなど柑橘系のアロマでリラックス効果を狙うのがおすすめ。

【OK】午後11時から午前3時までは必ず寝ている。

午後11時から午前3時までは「肝胆」の時間帯。厳密に言うと、午後11時から午前1時までが胆囊の時間で午前1時から3時までが肝臓の時間。

「肝と胆は表裏の関係。肝臓が暴走しないように胆囊が側で見張っています。胆囊は常に正しい判断をする“中正の官”と呼ばれています」。

この時間帯はしっかり休んで肝胆をいたわるべし。

【NG】気づくとスマホをガン見している。

気づくとスマホをガン見している

五行説によれば五臓が弱ると病気が表れやすいところがそれぞれ決まっている。腎は髪、脾(膵)は唇、そして肝は目だ。

「目に与える刺激は強すぎると肝にも悪い影響が出てきます。スマホの見すぎや長時間のパソコン作業はできるだけ控えましょう。とくにこれからの春の時季は肝臓が活発になる時期。暴走しないよう要注意です」

腎臓|運動はほどほどに、休息をしっかり取る。

【OK】冬の時季はインドアで静かに過ごす。

冬の時季はインドアで静かに過ごす

腎に対応する季節は冬。万物が静かに休息し、次の活動に備えるためのエネルギーを蓄える時期。そして養生を間違えると腎が最も弱まる季節でもある。

「冬の間は夜が長いことでも分かるように休息の季節。ゆっくり過ごすよう努めましょう」

インドアで読書をする、音楽を聴くなどして、できるだけエネルギーを消費せず溜めることを優先しよう。

【NG】踵を地面に打ち付けるような運動が好き。

踵を地面に打ち付けるような運動するイラスト

頑張って運動すれば心身が健やかになる。一理あるが腎が弱っている人には逆効果。

「運動のやりすぎは腎を痛めるので、疲労を持ち越さない程度の適度な運動にとどめておきましょう。とくに踵を打ち付けるような運動はNG。腎臓は骨作りに関わるリンの調節やビタミンDの活性化に作用するので、骨への衝撃が強すぎると腎にも悪影響が出ます」

【NG】休日は持ち帰った仕事をすることが多い。

腎臓は生命力を蓄える臓器。親から受け継いだ「先天の気」というエネルギーを蓄積し、主に呼吸や食事で得る「後天の気」を司る働きも。前者は生きている限り減る一方で、後者は補充が可能。

「先天の気は肉体的、精神的な疲労やストレスによって漏れ出してしまいます。仕事と休みのメリハリをつけて、休日は休むことに専念しましょう」

膵臓|食べすぎに注意し、湿気を避ける。

【OK】汗をかいたらこまめに着替える。

バスケットに着替えの洋服が入っている

五悪といって五臓には病気を起こしやすい気候がある。肝は強風、腎は寒さ、脾(膵)で言えば湿気に弱い傾向あり。

「湿度の高い環境ではインナーをこまめに着替えたり除湿を心がけましょう。気候だけでなく、食べ物の湿気にも注意。たとえば消化力が落ちている人にはお米は粘り気のあるコシヒカリよりあっさりしたササニシキの方がおすすめ」

【NG】寝る直前まで食べ物を口にすることが多い。

たくさん食べているイラスト

脾は胃や膵臓などを含む消化・吸収機能のこと。よって食べすぎや過度な飲酒は避けて消化機能を無駄遣いしないことが重要。

「脾が弱まると口の中が甘い感じがして、甘いものを好むようになります。でも“甘すぎ”は禁物。みりんなどの発酵食品や果物でいえば柿くらいの甘さが適当です。また、寝る3時間くらい前に食事を終え消化器を休めてください」

肝・腎・膵に有効な水分の摂り方

グラスに水が入っている画像

水分が少ない状態を東洋医学では「陰虚」と言う。

「肝陰虚は血液の不足、水に関係する腎の陰虚はダイレクトに水分が不足することで起こります。脾陰虚は消化力に関係する水分が不足することです」

いずれにしても運動で汗をかくと各臓器の陰虚になりやすい。水分は一度に大量に摂るのではなくこまめに補充、肝陰虚はプラスでレバーやマグロ、腎陰虚はミネラル類を摂り、脾陰虚は常温水で消化器をいたわることがポイント。

時にはお守り代わりの漢方薬も。

漢方の薬と水の入ったグラス

【漢方の飲み方】食事の30分から1時間前の「食前」、食事と食事の間の「食間」に飲む。

ご存じの通り、天然の生薬を複数ブレンドし薬として処方されるのが漢方薬。不足しているものがあれば補い、過剰なものがあれば取り除く。服用する人が最も健やかに過ごせる状態に導いてくれる作用が期待できる。もちろん、3つの臓器の不調に対応する漢方薬もあり、とくにこの3種はお守り代わりになる代表的なもの。

「柴胡桂枝湯の柴胡という生薬は肝臓のエネルギーラインの経絡に作用しやすいといわれています。腎臓はポピュラーで手に入りやすい、腎虚に対応する八味地黄丸。膵臓には胃腸を元気にしてくれる六君子湯がおすすめです」