今や“腸が10割”の時代。腸活をアップデートする基礎知識。

年々研究が進む腸内界隈。今さら聞けない腸の基本から、全身に及ぶその働きまでをまとめた。読めば分かる、健康でいるためには今や“腸が10割”なのだ。

text: Kano Ishitobi illustration: Jun Otani expert advisor: Jun Kunisawa

『Tarzan』No.927 on sale June 11, 2026.

腸のイラスト
教えてくれたひと

國澤純(くにさわ・じゅん)/国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所副所長。医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)のヘルス・メディカル微生物研究センター長、腸内環境システムプロジェクトリーダーも兼任する腸内研究の第一人者。

健康に直結する、腸の組織と哲学。

カラダの司令塔にして絶対君主は脳、と長らく信じられてきた。でも近年、実は多くの臓器や組織が脳と相互に情報をやりとりして生命活動が維持されていることが分かってきた。その中でも重要視されているのが腸。なにせ多細胞生物の進化のごく初期、最初に作られた器官が腸だからだ。

たとえばクラゲやイソギンチャクの仲間であるヒドラ。口と腸しか持ち合わせていないこの生き物は、貪欲にエサを捉えて口に運び、腸で消化吸収し、未消化物を口から排泄する。脳がなくても数億年前から逞しく生命を繫いでいる生物だ。

進化の過程で脳を手に入れた多くの生物も食物を口に運び、腸で消化吸収し、生きるためのエネルギーを得るのはヒドラと同じ。厳密には胃で食物を攪拌し、小腸で消化吸収し、大腸で便を作って肛門から排泄する仕組み。

基本的に口から肛門に至る消化管は食べ物が入ってきた瞬間から自発的に蠕動運動を開始して食物を奥へ奥へと運んでいく。脳の指令がなくても独立して活動するあたりは、まさにヒドラと同様だ。

こうして消化管の働きを改めて眺めてみると、あることに気づくかもしれない。当たり前だが食物は外から取り入れる物質だ。これを咀嚼して攪拌して最小の単位にして腸管から「体内」に吸収し、残ったものを排泄する。

つまり、消化管および腸はカラダの内部にある器官とはいえ、ある意味「外界」だということ。生命は脳よりもまず、この内なる外界からスタートしたと言ってもいい。

さて、現在消化管の中でも腸が重要視されている最大の理由が腸内細菌だ。ご存じの通り、腸には膨大な数の細菌が存在している。これらの細菌が健康に関与していることは既によく知られている事実。腸内研究の第一人者、國澤純さんは次のように言う。

「とくに大腸に関しては食物残渣の水分を吸収して便を作る働きがよく知られていますが、それだけではありません。我々人間が分解できない栄養素を大腸に棲む多くの腸内細菌が分解し、そこから作り出されるものが人体に吸収される。腸内細菌は“もうひとつの消化管”という考え方もできます」

今や健康志向の人々の共通言語となった腸活。すでに腸活を心がけているという人も、今さら聞くのも気が引けるという人も、基礎知識から最新の知見まで一気見できるこのチャンスをお見逃しなく。

消化管|カラダと外部を繫ぐ最重要インターフェース。

食物の通り道は口から始まり、食道、胃、小腸、大腸を経て肛門へと至る。体幹を貫くこれらの臓器の総称は消化管。文字通り、全長約9mにもなる一本の管だ。外界から取り入れた食物はこの管を伝わって体内に取り入れられ、残ったものが排出される。いわば外部とのインターフェース。

ちなみにピンクの臓器は代謝や解毒を行う肝臓、オレンジの臓器は消化酵素や血糖コントロールに関わるホルモンを分泌する膵臓。これらは消化管と連携してエネルギーの獲得や代謝に関わっている。

消化器官(口・食道・胃・小腸・大腸・肛門)のイラスト

  1. 口|食物の第一関門。咀嚼によって消化酵素と食物が混ざり合い、炭水化物の分解が始まる。
  2. 食道|飲み込んだ食物は食道の蠕動運動によって胃に送り込まれる。通過時間は約1分。
  3. 胃|大量の胃液と食物が攪拌され粥状になる。酵素によってタンパク質が分解される。
  4. 小腸|糖質、脂質、タンパク質の分解が進み、最小単位の栄養素が体内に吸収される。
  5. 大腸|小腸で吸収されなかったものが大腸に到達。食後からここまで最低8時間かかる。
  6. 肛門|食物の最終出口。食後24〜72時間後、大腸で形成された便が無事に排出される。

小腸|栄養吸収と免疫を司る唯一無二の巨大臓器。

小腸は胃で攪拌された食物が送り込まれていく臓器。長さは6〜7mで管の内側は絨毛という無数のひだで覆われている。このひだをすべて平らに広げるとテニスコート1〜2面分になる。絨毛の役割は最小単位まで分解された糖質やタンパク質などの栄養素を速やかに吸収すること。

また、小腸には食べ物の他に細菌やウイルスなどの異物も運ばれてくる。これを不用意に体内に入れないために多数の免疫細胞が集まっている。

大腸|腹部をぐるりと一周する食物の最後のパスウェイ。

小腸でほとんどの栄養素は吸収されるが、ヒトの消化酵素で分解できない残りの栄養素は大腸に運ばれていく。全長約1.5mの大腸の主な役割はそれらの栄養素の水分を吸収して便を作ること。

小腸における食物の通過時間は4〜6時間だが、大腸のそれは15〜20時間。これは小腸が絨毛によってスピーディに栄養吸収を行うのに対し、突起のない大腸では食物残渣がゆっくり通過するから。近年は大腸に棲息する腸内細菌の重要性が注目されている。

小腸・大腸の名称とイラスト

【十二指腸】胃に連なる小腸の入り口。胃で攪拌された食べ物に消化酵素を混ぜる。

【横行結腸】大腸の上部、右から左へ向かって走る部位。半固形の便の水分を吸収する。

【上行結腸】大腸の右下から右上に向かって走る部位。液状の内容物から水分を吸収。

【回腸】小腸の最後の部分。リンパ節の集合体、パイエル板が多数存在する。

【盲腸】大腸の始まり部分にある突起。腸内細菌の棲み処の役割も。

【空腸】小腸の上部で小腸全体の約5分の2を占める。消化吸収のメインの部位。

【下行結腸】大腸の左上から左下に向かって走る部位。ここで固形便が作られる。

【S状結腸】大腸の終末部分で文字通りS字を描いている部位。便を直腸へ送り出す。

【直腸】肛門のすぐ上に位置する。便を一時的に溜めて排便に備える部位。

腸内細菌|種類は1000、数は30〜100兆、多様な顔を持つ体内生命体。

小腸や大腸は食物の消化吸収や排泄になくてはならない大事な臓器。でも、それだけではなく全身の健康に関わっていることがここ最近分かってきた。

そのキーワードは腸内細菌。腸には1000種類、30〜100兆個もの腸内細菌が棲息していて、腸内細菌のバランスがよければカラダに有用な働きをすることが明らかになったのだ。

意識の高い人々にとって、腸内細菌および腸内環境を整える腸活はもはや常識。乗り遅れるべからず。

腸内細菌の構造イラスト

【粘膜】小腸や大腸の一番内側に当たる。食べ物や便に触れる部位。

【固有筋層】消化管の内部にある物質を送り出す、蠕動運動を促す筋肉の層。

【漿膜】小腸や大腸の一番外側の部分。腸の外側が傷つくのを防ぐ。