肩甲骨で引き、股関節で押す。プロに教わるボルダリングの基本。

木登り、ジャングルジム、雲梯。ぶら下がったり、よじ登ったり……。子供の頃、誰もが夢中になった動き。今では遠い記憶になったその感覚を、大人はボルダリングで取り戻そう。肩甲骨で引き寄せ、股関節で押し出す。上下が連動したとき、壁の中でカラダはひとつになる。あの頃のワクワクまで、きっと甦るはずだ。

取材・文/鈴木一朗 撮影/小川朋央 編集/堀越和幸 撮影協力/B-PUMP TOKYO 秋葉原

初出『Tarzan』No.915・2025年11月20日発売

フリークライマーの大場美和さんがクライミングしている画像
Profile

田中偉登(たなか・たけと)/2000年生まれ。俳優。12年、『13歳のハローワーク』(テレビ朝日系)でドラマデビュー。同年に映画『宇宙兄弟』に出演。連続テレビ小説『エール』(NHK)、映画『長崎—閃光の影で—』などテレビや映画で活躍中。

大場美和(おおば・みわ)/1998年生まれ。フリークライマー。9歳でクライミングを始め、ユースではアジアで実績を残す。2015年、クライミングワールドカップ日本代表に。現在はフリークライマーとして、スポーツクライミングの普及活動を積極的に行う。

肩甲骨・股関節を駆使するボルダリングの動き。

左:大葉美和さん、右に田中偉登さん

クライミングは岩壁を自らの力で登るスポーツ。その中でもボルダリングはロープを使わずに、手足のみで大きな岩(ボルダー)を登攀する。全身運動のためコアである肩甲骨と股関節の動きが重要となる。

ここでは基本のキをフリークライマーの大場美和さんに教えてもらう。

生徒は俳優の田中偉登さん。ボルダリング部の部員役を映画で演じて、そこからジムに通うようになったが、なかなか思い通りに登れないというのが現状だ。大場さんが笑顔で話す。

「筋力がある人は、とりあえず登れます。でも、ある程度いくと、それだけでは対応できなくなる。肩甲骨と股関節の柔軟性が重要になってくるんです」

「ボルダリングを始めて筋肉がつきました。とくに背中。いいカラダって言われるようにもなった。でも、それだけでは限界があるんですね」と田中さん。

「関節をどう動かせばいいかがわからないという人は多い。基本の技術を学べば、どうすれば上手く動くかということを理解できます。さらに手足を順に出して登るので、股関節と肩甲骨を連動させる感覚もつかめていくと思うんです」(大場さん)

「動きの秘訣、ぜひ教えてください!お願いします」(田中さん)

まずはストレッチで動けるカラダを準備!

上半身のストレッチ。

肩甲骨

肩甲骨を寄せる画像

  1. 背すじをまっすぐに伸ばし、両腕を真上に伸ばす。
  2. 肘をカラダの後方に向けて、曲げながら下げる(写真)。このとき、胸を開いて左右の肩甲骨を背骨に寄せる。4回行う。

あぐらを描いて首に手を当て斜めにストレッチする画像

  1. 胡坐をかいて座り、頭を前後に倒して2往復。
  2. 左右に倒して2往復(写真のように手で倒してもよい)。
  3. 最後に左右4回ずつ回す。滑らかに動かないときは多めに繰り返す。

指と前腕

手を前に出し、手のひらをパーに広げる画像

  1. 両腕を前方に伸ばして、手のひらを外に向け開き、閉じるグー、パー(写真)を8回繰り返す。ポイントは、手を開くときも閉じるときも、指先までしっかり力を入れること。
下半身のストレッチ。

股関節

座り足の裏を合わせ手で持っている画像

  1. 両膝を外側へと倒し、カラダの近いところで両足裏を合わせる。
  2. 膝を低い位置に留めて(写真)10秒キープ。
  3. 楽にできたら背すじを伸ばして骨盤から前傾し10秒キープ。

爪先立ちしている画像

  1. 背すじをまっすぐに伸ばし、足は腰幅に開いて踵の上げ下げ。往復8回。行っている間は常に指に力を入れて床をつかんでおく。踵はできるだけ高い位置へと上げる。

太腿

床に手をつき片足を肩の下まで持っていく画像

  1. 肩幅で床に手をつき、外側に片膝を出し、もう一方は後方に。
  2. 腰を斜め前へ押し下げると、前脚のハムストリングスと、後ろ脚の大腿四頭筋に効く。20秒キープ。左右行う。

基礎編|壁の中で自由に動くためには?

人工壁につけられた突起物を“ホールド”と呼ぶ。いろんな種類があるから持ち方を覚える。そのうえで、壁の中で動きやすい姿勢を体得しよう!

基本の姿勢|壁とカラダの間に空間を作るのが大事。

基本の姿勢

登攀中、基本的には壁とカラダがくっついてはいけない(わざと寄せる場合もあるがそれは後ほど)。常に空間を作っておく。こうすると体力的に楽だし、動きを壁に妨げられることが少なくなる。

ホールドの種類とつかみ方。

ガバ|手にピッタリだからガバッと持てばいい。

ガバ持ち方

初心者でも持ちやすいホールド。指をできるだけ奥に入れて引っかけるのがポイント。手のひら全体をガバに密着させれば、より安定する。「これは簡単です。ガバッと持てばいいから」と大場さん。

カチ|薄いホールドは指の使い方が肝心。

カチの持ち方

薄くて指先しか引っかからないカチ。親指以外の4指の第1関節を曲げてかける。そして、親指を人差し指の上にかぶせる。「これを“カチ持ち”と呼び、手首が安定します」。

スローパー|つかみどころがない。じゃあ、どうするの?

スローパーの持ち方

見た目はツルンとした丸い形状。つかめないので、ホールドに手全体を押し付けるようにして、フリクション(摩擦)を利かせて固定。「体重を下向きにかけるとさらに安定します」。

ハリボテ|でっかいホールド、角を利用するのが正解。

ハリボテの持ち方

英語でボリュームと言う。でかくて捉えどころがないホールド。ハリボテの角(種類によって角度はさまざま)に合わせるように手のひらを曲げ、「指と手のひらで挟むようにしてつかみます」。

ピンチ|細長いホールドの名前は英語で「つまむ」の意。

ピンチの持ち方

細長いホールド。「親指と4指で挟んで(つまむような感じで)持てばいいです」(大場さん)。指の付け根に力を入れる人と、指先に力を入れる人に分かれるが、2つを試して合ったほうを選ぼう。

タンデュ|人差し指と小指、それぞれ内側に向ける。

タンデュの持ち方

写真はカチと同じホールドだが、こちらは親指と小指を使わない3指の指先だけが引っかかるようなホールドを指す。人差し指と小指をそれぞれ内側に向けるようにして指をかけると力が入りやすい。

足の使い方|爪先だけをホールドに乗せる。

OKの乗せたか

足は爪先だけを乗せるのが基本。「慣れれば小さいホールドでも足先で左右を入れ替えられるし、爪先立ちもできるからより遠くのホールドも取れます」と大場さん。また、爪先を中心にカラダの向きも変えやすい。

NGの乗せ方

足全体を乗せるのはNG。

実践編|ムーブでラクに効率よく登る。

壁を登るときの基本・四点支持とは、一番安定して疲れない姿勢のこと。そして四点支持の状態から、次のホールドをつかむためのカラダの動かし方のことをムーブと呼ぶ。今回は、3種類のムーブをご紹介。

四点支持|一番安定して疲れない姿勢。

四点支持

四点支持

四点支持

四点支持

左右の手足がすべてホールドにある。これが四点支持だ。壁の中で一番安定する姿勢。腕を伸ばし次のホールドへ(三点支持)。さらに左足をホールドから外し、右手でより高いホールドを狙う(二点支持)。

二点支持では対角の手足のみを外して動くこと。同じ側の手足を外すと安定性を失って落ちやすい。で、再び四点支持に。

「三点、二点支持の時間はできるだけ短く。素早く動き四点支持に戻りましょう」(大場さん)

キョン|膝を入れカラダを壁に近づける。これで次のホールドは楽勝!

キョン

キョン

キョン

両足をホールドで安定させた状態から、片側の脚を内側へひねる。膝が下を向くようにカラダの内側まで運んだら、両足で突っ張るようにして重心をとる。カラダを腰から回して壁に近づける。これで姿勢が安定するので、腕を伸ばせば次のホールドが楽につかめる。

「カラダを横にするのが難しい」(田中さん)

「腰が壁に入り切っていない(寄っていない)。もっと近づけてみましょう」(大場さん)

乗り込み|腰だけを動かして膝を深く折る。その後にカラダが“乗り込む”のだ。

乗り込み

乗り込み

乗り込み

目的のホールドに片側の足を乗せたら、上体はできるだけそのまま、腰だけを動かして膝を深く折り、踵の上に尻を乗せるように“乗り込む”。上手くいかない田中さんは膝をしっかり曲げられない。

「最初からカラダ全体で動くとダメ。感覚としては膝だけを横に動かして曲げる感じ。体重移動は片側の脚が動き切ってからです」(大場さん)

「頭ではわかっていますが……」(田中さん)

カラダのポジショニングが大切なのだ。

乗り込みのNG

クロス|カラダを壁に寄せてひねり、反対側にあるホールドをつかむ。

クロス

クロス

クロス

腕を交差させてホールドを取るのがクロス。片側の肘を曲げ、カラダを壁に引き寄せ、同時に内側へとひねる。目的のホールドとの距離が近くなる。肩甲骨を大きく動かし、腕を伸ばしてホールドをつかむ。この時体重はほとんど下の手にかかる。

「クロスの後、ひねったカラダを元に戻し、しっかりと止まってから次のホールドへと進む。戻している時に次に行こうとすると、カラダが振られて落ちる危険性があります」(大場さん)

肩甲骨・股関節が使えれば、もっと自由に動けるようになる。

田中さんがクライミングする様子

3時間、しっかり集中してレッスンを受けた田中さん。大場さんの手本を軽々とクリアする場面もあったが、やはり一筋縄ではいかないことが多かった。

「今までは、力だけで登っていたんだと痛感させられました」

田中さんは、ホールドさえつかめればグイグイ登れるのだが、手が届かない、足を置けないなど難所で止まってしまう。

「ボルダリングではまず股関節から動き始め、腕が連動する。さっきやった“乗り込み”が難しかったのは、股関節から動かす感覚がわからなかったからです。最初からカラダ全体が動いてましたから」と大場さん。

まず足を安定したホールドに置き、次にそこへ重心を移動させる。力で無理やりカラダを引き上げるのには限界があるし、体力もすぐになくなっていく。

「今日のことを何度もやればわかってきます。そうすると考えなくてもカラダが勝手に動く。それで、より遠い場所のホールドもつかめるようになるし、肩甲骨や股関節の可動域も広がります。でも、実は私自身もまだ肩甲骨の使い方に不満があるんですが。とにかく田中さん、今回は大健闘でした。すごく優秀だったと思います」(大場さん)

「あっ、余計悔しい(笑)。もっとがんばります」(田中さん)

「肩甲骨で引くのが苦手で、いまだに腕に頼ってしまう」と大場さん。本当!? で、こんな練習。張り出した棒に指を引っかけ懸垂。肩甲骨で引っ張り上げる。